私立さくらんぼ小学校



(初出:2010年10月 紙媒体)




 少し好色であることを除けば平凡な中学生である主人公・稔雄が、不思議な力を持った「夢を狩る者」である二人の少女と出会い、「世界の見せる夢」が引き起こす事件に立ち向かっていく姿を描いた『少女と世界とお菓子の剣』シリーズ。その第二作であるこの『Route of NANA』は、言葉として発したことを全て現実にする「言霊のリップ」の能力を持つ先輩・奈々子(ナナ)をヒロインにした物語である。
 この「私立さくらんぼ小学校」(以下、さく小)というサークルを知っている人はご存知のように、このサークルの作品の売りといえば、規制の緩やかな同人という場を生かした徹底したロリータ属性。一方、今回のヒロインであるナナは、このサークルのキャラクターとしては高年齢(とはいっても中学三年生であるが)であり、異例とも言える巨乳キャラだ。一見すると、前作『Route of AYANO』において従来のロリエロ路線からの大規模な転換を図ったのと同様に、「さく小といえばロリ」というイメージからの転換を狙っているかのようにも思える。しかし実のところは、全くもってそんなことはない。見た目はどうあれやはりさく小が描いたものは、紛れもなく少女たちの姿であったのだ。

 この作品の設定として、子供が強く念じた思いに「世界の夢」が浸食することで、現実が捻じ曲げられてしまうというものがある(例えば「消えろ」と強く願った相手が本当に消滅してしまう)。そして、その事態を解決するために、その思いの発端となっている問題――多くの場合それは子供たちの人間関係のもつれである――を追究するべく、主人公たちが行動するというのが概ねの展開である。つまり主人公ら子供たちに立ちはだかるのは、世界の夢といったファンタジーな存在というよりはむしろ、子供たちが今直面している現実なのだ。
 前作ではその現実に対し「どう立ち向かうか」ということが主軸となっていたが、今回彼ら彼女らが対峙することとなるものは、もはや子供の小さな手と心には到底収まりきらない――あたかも世界の夢と同じように現実を捻じ曲げる「言霊のリップ」ですら敵わない――強大すぎる理不尽な問題だ。そして実際には、問題が大きければ大きいほど「言霊のリップ」で捻じ曲げたり、目を逸らしたりといった逃避は絶対に許されない。そんなときどうしなければならないかという問いの結論は、たった一つ。……彼らは、大人にならなければならないのだ。
 子供は大人にならなければならないという、当然の結論。子供がそこにたどり着くまでには、さまざまな葛藤を要する。世界が理不尽であることを知りながら、それに迎合することの嫌悪、苦痛、絶望。しかし、それでも立ち向かわなければならないという現実。その中で子供の心が揺れ動く過程を、等身大の子供の目線から丁寧に描いた今作は、ロリという要素を十二分にテーマ性に生かした美少女ゲームでも貴重な存在であり、その点を抜きにしても優れたシナリオの作品だと言えよう。

 そのほかこのようなシナリオに加え、ロリエロゲファンから長い間支持を受けてきた美麗なCGや同人としてはかなり上等な演出などにより、総合的に非常に質の高い仕上がっている。シナリオも真面目一辺倒などということはなくて、これまでのさく小らしいエロギャグがふんだんに散りばめられるなど、日常も充分に楽しめる。展開に粗があるといえばあるのだが、そのうちのいくつかはクリア後の次回予告にて次回作『Route of ICHIGO』に対しての布石であることが明かされ、かえって次回作への期待を高めるものとなっているのが面白い。
 シリーズの第二作とはいっても、普通の美少女ゲームでいうところの「共通部分+各キャラのルート」が収録されているという形の頒布なので、前作『Route of AYANO』のプレイが必須というわけではない。より重たい話の方が好きなどといった理由で、こちらからプレイするというのも充分にアリだろう。ただ前述の通り、この物語の完結を見るには次回作である『Route of ICHIGO』を待つことが不可欠であるので、「続きモノはダメ」「分割商法かよ……」と思ってしまう性分の人には、少なくとも現在は薦めにくいかもしれない。